# 9 広島県府中市
因島の海を見つめる府中家具の調度品。
ものづくりのアイデンティティが調和する、新しい空間へ
# 9 広島県府中市
府中家具
井上隆雄さん
プロフィール
府中市出身。大阪のハウスメーカーなどで家づくりに携わったのち、家業である「若葉家具」の三代目代表取締役社長に就任。これまで主流だった婚礼家具が下火となる中、小売や自社ブランドの確立に尽力。2000年代、家具メーカーの枠を越えたブランド「kitoki」を開始。2022年夏には府中の自社ショールームを大幅リニューアル。
広島県の内陸・府中市からやってきた家具が、因島の海を静かに見つめている。
「渚の交番プロジェクト」でSEABRIDGEに置かれることになったのは、「若葉家具」で作られた椅子やテーブル。開放感のある空間に違和感なく溶け込むような木のやさしいぬくもりが、ここに訪れる人たちの時間に寄り添っている。
府中と因島、それぞれの土地の歴史を振り返れば、府中は家具、因島は造船と、産業に支えられてきたエリア同士であることがわかる。互いに育んできたものづくりの精神が重なり合ったとき、何が生まれたのだろうか。今回はSEABRIDGEの調度品に注目してみたい。
ものづくりの精神を育んできた町・府中
広島県東南部に位置する府中市では、古くからものづくりが盛んに行われてきた。中でも、長年の確かな技術によって紡がれてきた「府中家具」は、国内の家具を第一線で支えてきたという歴史を持つ。
「家」に「具」(そな)わると書いて、「家具」。そこに住まう家族のパートナーとして暮らしの中心に佇む家具だが、時代とともに役割に少しずつ変化が見られることにも気付かされる。
たとえば箪笥。昭和の頃には婚礼家具のひとつに数えられ、どの家にもあるのが当たり前だった。しかし住宅事情やライフスタイルの在り方が変わり、箪笥は徐々に“なくても困らない家具”となっていった。
時代とともに失われていく文化
それを見つめる老舗企業
1974年に府中で創業し、箪笥を作り続けてきた若葉家具。三代目社長の井上隆雄さんは大学で建築を学び、ハウスメーカーなどで家造りについての経験を積んだ後、家業を継ぐために府中へ戻った。
しかしそのとき、これまで経営を支えていたはずの箪笥が売れないという現実に直面することになる。“府中家具といえば婚礼家具”という文化が、時代とともに失われていく。新しい住宅にはクローゼットがつき、箪笥を必要としない生活が主流になっていたのだ。
ものづくり企業としての矜持と挑戦
「自分に何ができるだろうか」。そんな想いで帰郷した井上社長は、全国から仕入れた椅子・テーブルなどをショールームで販売するなど、小売に注力し始める。また自社の技術を見つめ直し、家具のカスタムオーダーも始めた。「お客様が望む家具がうちにないなら造ればいい。若葉家具には、その技術がある」。
「府中だから大丈夫」――そんな歴史に、甘えてはいられなかった。ものづくりの老舗企業としてのプライドを胸に、若葉家具は挑戦を諦めなかった。
クラフトへのこだわりが形となった
ひとつの転機
そんな若葉家具が転機を迎えたのは、「kitoki(キトキ)」との出会いだ。産地違いの家具メーカー3社と、家具デザイナーが協働するプロジェクトで、同じ木材による家具を各社それぞれの世界観で生み出していくというエコファニチャーブランドだった。
天然素材である木材の懐の深さ、それを表現するあたたかなデザイン、“再生可能”という観点。ものづくりのこだわりが詰まったブランドへの参画により、若葉家具の製品開発にも再び弾みがついていった。そして若葉家具は、因島のSEABRIDGEと出会う。
SEABRIDGEを接点に、
ものづくりへの想いは調和する
府中が持つものづくりの矜持は、造船業で栄えてきた因島に通じるものがある。互いの地域で培われてきたアイデンティティが海を介して出会い、そして生まれた調和が、技術やプロダクトを新しい境地へと導いてくれるのかもしれない。
海を望む最高のロケーションに、天然素材の木材家具が佇んでいる。共鳴して、調和して、新しい時代へ並走していくかのように。居心地の良い空間を演出する家具と、空間。SEABRIDGEでの時間を通して、ものづくりの過去や未来に想いを馳せてみてほしい。
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