# 1 広島県世羅町
世羅で作られたオーガニックなお茶を因島で。
海が接点となり、“余白”が生まれる
# 1 広島県世羅町
TEA STAND GEN
髙橋玄機さん
プロフィール
広島市出身。高校卒業後、海外に留学したことで「和」に目覚め、お茶作りの世界へ。日本各地で販売や栽培、製造の修業を経て、広島へ。世羅町に茶畑と茶工場を構え、無肥料・無農薬、手摘みのお茶栽培に向き合っている。2019年には直営店「TEA STAND GEN」を尾道市にオープン。お茶にまつわるさまざまな魅力を伝える活動を行っている。
「海を接点に地域に多様化を生む」
2021年7月、海を接点に地域の中と外にあるものを繋げて、今までになかった新しいものを生み出していくことをコンセプトに掲げ、『渚の交番SEABRIDGE』は、因島のしまなみビーチに誕生した。
造船業を中心に栄えてきたこの地域では、現代も海の「接点」を軸に新しい価値を育んでいる。目前に広がる豊かな海に、さまざまな船の行き交う風景はまるで海の交差点。SEABRIDGEはそんな海を眺める拠点として、せわしない時間から少し離れ日常の“余白”を感じることができる空間だ。
歴史を辿ると因島は、「海がつなぐ物語」をいくつも描いてきた。今回、海がつないでくれたのは世羅のお茶。この島で、今度はどんなストーリーが生まれるのだろうか。
豊かな農作物と四季折々の花畑。
人と自然を結ぶまち世羅
広島県世羅町。
県の中東部に位置し、梨やぶどうなどのフルーツ、野菜、米など豊かな農産物に恵まれた町だ。高原エリアは四季折々の花畑が美しい「花の里」として、人と自然を結んでいる。
今回SEABRIDGEでは、海を接点に、世羅の「TEA FACTORY GEN」と交差。共に試行錯誤を重ねながら、コラボレーションメニュー「ほうじ茶プリン」(数量限定)が完成した。
標高400mの高原地帯において、無肥料・無農薬で大切に育てられる茶葉。「TEA FACTORY GEN」の日本茶は、どのような想いで作られているのだろうか。因島から車で約1時間、しまなみ海道からやまなみ街道を抜けて私たちは世羅町にある茶工場を訪ね、髙橋玄機さんに話を伺った。
五感を研ぎ澄まし、
お茶と向き合う
摘採した茶葉は、熱処理から蒸らし、冷却、粗揉、揉捻、乾燥と実に多くの工程を経て製茶されていく。世羅町にある築70年ほどの茶工場。もともとお茶が作られていた建物をほんの少し修繕して、「TEA FACTORY GEN」の工房は始まった。
夏が近づく5月頃。茶作りの時期になると、髙橋さんはひとり世羅町の工場で茶作りに没頭する。お茶作りで大事なこの時期は、味の濃いものや肉、酒、香辛料などを一切口にしない生活を送るのだという。
「お茶作りには五感を使いますし、精神的な安定感も必要。ストイックに見えるかもしれませんが、この時期は身体的にも精神的にも、1年のなかで一番調子が良いんですよ」。
自分を見つめ続けた日々。
髙橋さんとお茶の出会い
髙橋さんは、お茶農家としてだけでなく、お茶にまつわるさまざまな活動を通してその魅力を伝えている。尾道の土堂エリアに直営店「TEA STAND GEN」を立ち上げ、茶葉の量り売りや淹れたてのお茶が味わえる場も提供する。
「自分で作っているお茶は全部自分好みです。清涼感があり、どんどん飲める」。髙橋さんがそう語るように、淹れていただいたお茶はすっきりとしていて飲みやすくほっと安心できるやさしい味わいだった。
お茶の追究、そして自分が作りたいお茶の姿に気付く
髙橋さんは全国各地でお茶に関するさまざまな経験を積んだ。京都に本社のあるお茶の製造会社での販売、鹿児島でのお茶修業、さらに長野や静岡、奈良での研究を経てきた。そうして実地で学んだ髙橋さんは、まだ誰もオーガニックなお茶を栽培していない土地を求め、広島に戻ることに。
お茶と出会えたからこそ人、地域、ものとの多彩なつながりが生まれた。尾道に「TEA STAND GEN」を構えたのも、人との縁がきっかけ。
お茶に出会い、人に出会い、引き寄せられるように今があるという。
珈琲やクラフトビールのように、
もっと身近にお茶を楽しんでもらえたら
お茶は、栽培や製造、販売だけでなく、空間、香り、うつわ――無限に可能性を秘めている。ライフワークとして、これからもお茶作りは続けていきたいと話す髙橋さん。しかし今後は、お茶を身近に感じてもらえるような活動も徐々に広げていきたいのだという。
「はじめは、良いお茶が作れさえすればいいと思っていました。でも今は違う。せっかくこだわって作ったのだから、淹れ方や楽しみ方、茶器の選び方に至るまで、幅広く伝えていけたらと思っています」。
もっと人々の生活にお茶が根付いてくれたら。もっと自由にお茶を楽しんでもらえたら。その土壌をどうやって耕していくかは、これから考えていきたいと語る。
海を見ながら余白を感じるひとときを。
つながっていく物語
最後に、髙橋さんにとってお茶とは?
――「日常の中にある“余白”ですね」。
“余白”は、日本人独特の考え方だという声もある。日本庭園や日本画に表現される余白は、確かに見る者の心に凪をもたらす。それはお茶も同じなのだろう。お茶を楽しむ時間は、さまざまな物事に追われて視野を狭めてしまいがちな日々に、余白を与えてくれる。
Collaboration Menu
※終了しました。
今回SEABRIDGEでいただけるのは、「TEA FACTORY GEN」のほうじ茶を使った「三層のなめらかほうじ茶プリン」。茶葉を漬け込んだ自家製シロップを上からかけて口の中に運ぶと、なんとも言えない上品な甘みの中に、豊かなお茶の香りが口の中いっぱいにひろがっていく。遠く離れた世羅の茶畑の風景が、目の前の海に運ばれて繋がった。
それぞれの味わいにこだわった
三層のプリン
シロップに漬け込んだ茶葉を
かけていただく
店内で丁寧に焼き上げた
塩クッキー
「TEA FACTORY GEN」
のほうじ茶
三層のなめらかほうじ茶プリンセット
(1日10食限定販売)
――¥850(tax in)
セット内容
ほうじ茶プリン
自家製お茶シロップ
塩クッキー
ほうじ茶(40cc)
上から、無肥料無農薬で育てた広島在来の“世羅ほうじ茶”、同じく無農薬で香ばしい“瀬戸内ほうじ茶”、そして三層プリンの上からこのメニューのためだけに作った“自家製お茶シロップ”を好みでかける。お口直しのお茶と塩クッキーがセットでついてくるのも嬉しい。
海を接点に、島になかったものがSEABRIDGEへ。海を行き交う船をこの空間で眺めながら。お気に入りの本を開きながら。ほっと一息つける時間を過ごし、余白を感じてみてほしい。世羅のお茶と因島が出会って、ここにひとつの物語が紡がれていく。