# 6 広島県尾道市因島
因島での原体験が育む少年の夢。
「すばるくんのみかんやさん」開店
# 6 広島県尾道市因島
すばるくんのみかんやさん
中山 総(すばる)くん
プロフィール
2021年9月、家族4人で東京から因島へ移住した中山さん一家。2022年6月に近所の柑橘畑を借り受たことで家族で初めての柑橘作りに挑戦し、同年12月24日・25日には柑橘類の販売会「すばるくんのみかんやさん」を開店。若き店長のみかんやさんには、2日間で多くの客が訪れた。
2022年のクリスマス。
渚の交番SEABRIDGE店頭の一角に、2日間だけの小さな小さなポップアップストアがオープンした。
その名も「すばるくんのみかんやさん」。店長を務めるのは、小学1年生のすばるくんだ。
きっかけは、SEABRIDGEに届いた1通の手紙だった。
「ここで、みかんやさんがしたいです」。東京から移住してきたすばるくんが初めての柑橘作りを通じて踏み出した、夢への第一歩。移住の先に生まれた想いや因島での暮らしについて、中山さん一家に話を聞いた。
店頭に並ぶのは、選りすぐりの柑橘類
2022年12月、中国地方はクリスマス寒波に見舞われ、因島も寒いクリスマスを迎えていた。12月24日の14:00頃SEABRIDGEに到着すると、頬を赤らめながら元気に広場を駆け回る男の子が二人。きっとどちらかが店長のすばるくんなのだろう。
「すばるくんのみかんやさん」に並んでいた柑橘は早生みかん、だいだい、はっさく、レモンの4種類で、一つひとつ手作りされた袋に詰め放題で300円というシステムだった。弟のいっしんくんと走り回っていたすばるくんもやってきて、真剣な接客モード。どれがおいしそうか、感触を確かめながら一緒に選んでくれた。
買って帰った早生みかんはジューシーで甘く、程よい酸味が疲れた体に沁みわたる。とてもとても、おいしかった。
「おいしい柑橘をわけてあげたい」
SEABRIDGEに届いた、少年からの手紙
中山総(すばる)くんは年長のとき、家族4人で東京から因島へ引っ越してきた。現在の夢は、なんと「はっさく農家」だそうだ。はっさくといえば因島が発祥。なぜすばるくんははっさく農家の夢と出会ったのだろうか。本人に尋ねてみた。
「最初は、収穫のお手伝いをしたよ。はっさくを木から切ってかごに入れるのが楽しかった。今は自分の畑で育てているよ。からだにいいし、おいしい柑橘をみんなにもわけてあげたいって思った。SEABRIDGEの酒井さんに“お店がやりたい”って、手紙を書いたんだ」。
かくして、みかんやさんプロジェクトがスタート。どう伝えたらSEABRIDGEでお店をやらせてもらえるだろう。どうしたらお客さんに知ってもらえるだろう。ポップ作りやチラシ作りもすばるくんが主体となり、家族の助けを得ながら着々と準備を進めていった。
悔いのない人生を。
健さんが3.11で実感した“今”という瞬間の尊さ
中山さん一家は健さん、真理さん、総(すばる)くん、維真(いっしん)くんの4人家族で、東京の都心部で暮らしていた。健さんの仕事は忙しく、子どもと顔を合わせられない日が続くことも多かったという。「子どもたちが成長していくこの瞬間、一緒に過ごせなければ後悔する」。今を大事にしたい、そう考えるようになったきっかけは2011年、健さんが仙台勤務だった頃に遡る。
「当時整備士として仙台空港で働いていて、自分の荷物から飛行機に至るまで全て津波に流されてしまいました。…それが大きいですね。人生一度しかないんだという、芯のようなものが芽生えたんです」。
その後、長男すばるくん、次男いっしんくんが誕生。自然のあふれる環境で子どもたちに原体験をしてもらいたいという想いもあった健さんと真理さんは、さまざまな縁に導かれ、複数の候補地の中から因島への移住を決めた。
島で過ごす全てのことが、子どもたちの原体験
日当たりが良く、海の見える柑橘畑。週末になると家族4人は畑で作業をして、天気が良い日はお弁当を広げる。ところで健さん、この畑はどうやって?「子どもたちと虫捕りに出かけたら養蜂場を見つけ、見学させてもらいました。そのご縁で近くの小さな柑橘畑の収穫手伝いをして、その畑を借りられることに」。
「ハチミツはこうやって採れるんだよ。これが秋の七草だよ。自然や命について知ってほしくて、すばるといっしんにはできる限り伝えていました。でも、因島で遊べば全てのことが原体験になる。言葉だけでなく、子どもたちは身をもって自然や命の尊さを感じていると思います」。移住後の子どもたちについて、真理さんもそう語ってくれた。
たくさんの経験によって
少年の夢は自分だけのカタチに育まれていく
ちなみに、以前のすばるくんの夢は警察官だったそうだ。消防士に憧れていたこともある。すばるくんもいっしんくんも、これからどんどん自分だけのかけがえない原体験を積み重ねていく。そして彼らの夢は何層にもグラデーションとなり、個性豊かに彩られていくだろう。
最後に、若き店長に初めてのお店の感触を尋ねてみた。
「みんなが買っていってくれて嬉しかった!今度ははっさくの料理を考えて、みんなに食べてもらいたい!」
一人の少年の「やってみたい」から始まった今回のみかんやさんプロジェクト。因島で育っていく彼らはこれからどんな大人になるのだろうか。少年の夢は、まだ始まったばかり。
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